人はなぜ「いじめ」るのかーその病理とケアを考える
編 集
:生野照子・山岡昌之・鈴木眞理
著 者
:山折哲雄・柳 美里
判 型
:4/6判 1色
発行年
:2013年
頁数
:208頁
ISBN
:978-4-902470-93-2
電子化
:なし

定価 本体1,300円+税

  • 内容紹介
  • 著者について
  • 目次
 「いじめ」られて行き場を失った中・高校生の自殺や「いじめ」がエスカレートして殺人にまで至った救いのない事件が報じられて久しい。また「いじめ」そのものの様相もますます陰惨・凄惨の度合を増している。しかし、いまだ実効性ある処方箋は一向に見えてきていない。加えて「体罰」「虐待」「ハラスメント」による悲惨な事件もあとを絶たず、被害者の年代も子どもから大人まで、その精神構造は共通しているように見える。 本書では「いじめ」を、わが国の社会の劣化によって、日本人の心の奥底にある「いじめ」という闇の部分に日本人自身が歯止めを失ってしまった結果による現象ととらえ、その病理について民俗学・宗教学の泰斗によるインタビューを行い、かつての日本の伝統文化のなかにあった「いじめ」を制御していたエトス、宗教、芸能が何であって、それが近年なぜ、どのように風化してしまったかの文化人類的な考察解説してもらっている。さらに、現在の「いじめ」や「差別」、「虐待」などの家族問題と最も鋭く対峙してきた作家による、現在の家族関係、人間関係の特徴と、回復の可能性について社会に阿ることのない提言を骨格にしている。 編集(聞き手)は日常外来で患者の「こころとからだの病い」の診療に携わっている心療内科の専門医が行っている。「うつ」「摂食障害」「登校拒否」など患者の背後に「いじめ」の気配を感じながらも、患者の苦しみに対して有効な手立てを見つけられないという忸怩たる思いの中で、「いじめ」は学校の教師や当事者家族だけの問題でなく、医者にも重大な役割(役割)があり、日本人すべてが専門分野を越えて命がけで戦うべきテーマであることを、飾らぬ言葉で真摯に議論したものである。

「こころとからだ」の病気の診療を専門にする三人の医師が他分野との連携を求めて編集した。第一部は日本人の伝統的な文化に詳しい民俗学者・宗教学者山折哲雄氏。第二部は「いじめ」や「差別」「自殺」などをテーマにした小説・戯曲を発信し続けている芥川賞作家柳美里氏がゲスト。第三部は医師三人が二つの議論を通して引き出した医療の課題についての鼎談である.

序文

第一章 日本人と「いじめ」

  • ―「いじめ」の本質―
  • ゲスト:山折哲雄  聞き手:生野照子 山岡昌之 鈴木眞理
  • 「いじめ」は差別であり。差別は無くならない/攻撃的な「いじめ」と前進的な「いじめ」/「いじめ」現象と日本固有の「いじめ」の違い/人間の野生化を飼い慣らす四つの文化装置/「いじめ」の構造/どうして人を殺してはいけないか/「いじめ」の構造/「ひとり」と「個」/人は「ひとり」で生まれて。「ひとり」で死んで行く/無償の愛が作る「世界に一つだけの花」/一緒に泣くということ―悲しみそのものが救いの母体である/いまのままのあなたでいい/リスクを取らなくなった日本人―戦後民主主義の変節/価値の転換の時代―子どものために死ねるか/大阪の「夜回り先生」/「生と死」に入り込んできた「老と病」/日本文化とヨーロッパ文化の価値観の違い/翁媼(おきな・おうな)と童の世界/般若の面にある怒りと悲しみ/「お能の世界」はカウンセリングのモデル/浅田真央にみる日本的舞の姿/伝統の意味を伝える/背中が持っている「癒やし」の力/学校に若者宿を採り入れる/「いじめ」られる側の問題/ゲームが「死」をバーチャルにする/「いじめ」を受け入れる社会システム/「聴いて聴いて聴く」ことの大切さ/叱れる親、叱れる教師/教師は正直で無防備がいい/教育委員会制度のプラスとマイナス/教育委員長を辞して見えてきたもの/深く美しい沈黙

第二章 「いのち」の奇跡に気づく感性を育てる

  • 居場所のない子ども達のケア
  • ゲスト:柳 美里  聞き手:生野照子 山岡昌之 鈴木眞理
  • 医者の心が透けて見えた医療との出会い/「イツメン」―ひとりになれない/親の期待が実感できない子ども達/親の無関心と同期する「いじめ」/家族の変容がもたらす親子関係の息苦しさ/学校を開放する―激務すぎる教師/養老孟司さんとの出会いで子どもの世界が広がる/間違いを間違いと言えない教師/感情的「知性」の大切さ/値段が価値を作る時代/「いじめ」ている子のケアが大事/「いじめ」る側の心の叫びを聴く/対症療法より原因療法を/「しごき」と「いじめ」の境界/心の闇に目を凝らす/死者に関わり続けることで生まれる感性/命の大切さを学ぶことは、死を学ぶということ/「いかに死ぬか」が「いかに生きる」かに繋がる/地域の人から人生を学ぶ/人は誰でも一遍の小説ほどの物語がある/「自分の声」を聴く/タブーに対する二枚舌/立ち直りの経験こそ子ども達への励まし/居場所のない人のために小説を書く

第三章 いま医療にできること

  • 「いじめ」のトラウマがもたらす心身の病い
  • 発言:生野照子 山岡昌之 鈴木眞理
  • 置き忘れられた「ひとり」ということの気高さ/「ひとり」も怖いし、近づくのも怖い/「ひとり」を支えるのは宗教と家族/何万人もの奇跡(物語)が重なって「あなた」がいる/「いじめ」られている子より「いじめ」ている子のケアが大事/医療者からアピールする必要性/チェックリスト、マニュアルはたくさんあるけれど/格差社会が「いじめ」の原因か/「平等」は不平等/「多様性」を認める教育/「摂食障害」と「いじめ」/現実と理想との挟間で虚しく生きるこども達/ストレスの大半は「いじめ」が原因/これからの社会に求められる「情」の教育

おわりに