循環器科領域の臨床には、膨大な知識をむやみに詰め込んでも決して臨床に有効な知識は身につかない。本書はその半生を通じて臨床教育に情熱を注いできた、知る人ぞ知る通称「伊賀塾」塾長といわれる著者が、1.病歴、身体所見にとり方、2.基本的循環器検査の診かた、3.心臓を上手に診るためのポンイト17カ条の3章を骨格として、研修医のレベルにあわせて簡潔に焦点を絞って解説する、経験に裏打ちされた、生きたガイドブックである。あわせて研修医生活のセルフアセスメントに役立つよう到達目標と評価法、臨床研究法などについても紹介している。
Introduction
心臓の病歴と身体所見のとりかた:Teaching Point 1
- 診察所見によって聴取すべき病歴が異なる/病歴のとりかた/身体診察
1章 心臓の診かたスキルアップ
- 心雑音の聴取方法
- 過剰心音や他の所見との関係
- 胸部 X 線
- 心電図
- 心エコー図
- 診断の過程の実際
- 検査の選択と検査前確率および検査後確率
- 卒後研修または生涯教育の minimum requirement の設定
2章 心臓を上手に診るための17か条
- CPS カンファレンスの教育上の意義と効果
- 第1条 労作性狭心症:安定性の労作性狭心症では、高度の血管狭窄病変を有することが多く、重大な他の疾患がなければカテーテル検査が勧められる
- 第2条 異型狭心症:運動負荷陰性、冠状動脈造影正常であっても日本人では異型狭心症がありうる
- 第3条 後壁梗塞:急性の後壁梗塞を心電図で発見することは難しい
- 第4条 拡張型心筋症:一般医にはギャロップ音を検出できる診察能力が必要である
- 第5条 大動脈弁狭窄症:心不全は診断名ではないので、原疾患に基づいた治療選択が必要である
- 第6条 頻脈による心不全:頻脈が続けば左室機能が低下しうる
- 第7条 肺血栓塞栓症:病歴情報なしに心電図診断を行うべきではない
- 第8条 心室性期外収縮:病歴により、ほとんどの場合、動悸の原因を診断できる
- 第9条 発作性心房細動:発作性心房細動は通常よく見られる不整脈であり、半数以上に、疲れ、アルコールの過摂取、ストレスなどの誘因が見られる
- 第10条 WPW 症候群:Wolf-Parkinson-White 症候群を合併した発作性心房細動では、副伝導路の存在により通常より心拍数が速くなり、放置すると心室細動に移行し、突然死の原因となる
- 第11条 高血圧:高血圧の治療目的を患者に納得させることが、一般医の重要な役割である
- 第12条 心尖部肥大型心筋症:高血圧の既往もなく無症状で著明な左室肥大を呈する 60 歳以上では、心尖部肥大型心筋症の可能性が高い
- 第13条 高カリウム血症:P 波が見られない徐脈では高カリウム血症も考慮すべきである
- 第14条 房室ブロック:徐脈を呈する高齢者では、降圧薬や点眼薬の副作用も考慮すべきである
- 第15条 僧帽弁閉鎖不全症:一般医は、大きな雑音が収縮期か拡張期であるかを鑑別すること、および心エコー図以外の方法で心雑音のおおよその起源を推定できる能力が必要である
- 第16条 大動脈弁閉鎖不全症:正常血圧であれば大動脈弁閉鎖不全症は高度ではない
- 第17条 6.0cm の腹部大動脈瘤:外科手術など危険を伴う介入治療をするときには、医学的判断以外に患者の好み、周りの状況、介入後の生活の質を考え総合的に判断されなければならない