医療崩壊が声高に叫ばれるなかで、医療紛争や医療訴訟が増え、ますます深刻な状況が生まれている。
本書は医療紛争の特徴から、一度紛争にまで発展したものの解決には限界がある、したがって日常診療の「質」の向上を通じて、紛争を発生させない予防型のリスクマネジメントを確立することに努めるべきことを提唱している。そのためには、苦情・クレームを正しくとらえどう対応すべきか、またどのように日常診療の「質」を保証するか、さらにどのようにして患者のリテラシーを向上させ、医療者と共通の地盤に立つのかを、豊富な事例と文献を駆使して解説している。著者はそれを「共創と医療」と呼んでいる。
本書は医療紛争の特徴から、一度紛争にまで発展したものの解決には限界がある、したがって日常診療の「質」の向上を通じて、紛争を発生させない予防型のリスクマネジメントを確立することに努めるべきことを提唱している。そのためには、苦情・クレームを正しくとらえどう対応すべきか、またどのように日常診療の「質」を保証するか、さらにどのようにして患者のリテラシーを向上させ、医療者と共通の地盤に立つのかを、豊富な事例と文献を駆使して解説している。著者はそれを「共創と医療」と呼んでいる。
医療分野に特化した患者満足度研究の第一人者。英国レスター大学で学んだ経営学を基礎に医療マーケティングの立場と医療倫理、医学教育を統合した視点から「医療の質」向上を提言している。著書に「患者満足度」「コミュニケーションスキル」に関するもの多数。
はじめに
- 読者の皆さまへ-日本の主観的幸福度は世界で88位/医療崩壊の進行/訴訟リスクが防衛医療を招く/医療者内にも生じる亀裂/根底にあるのは「医療の質」に対する要求
第Ⅰ章 医療訴訟の現在
- 医療訴訟と医療崩壊-医療紛争環境は大きく変わった/勝つ見込みがない訴訟になぜ/刑事事件に折れた勤務医たち-刑事事件の特色/医師法21条/警察への届出数の年次推移/破綻している医師賠償責任保険-70億円のファンドに3600億円の潜在的賠償額/誰が医療過誤リスクのコストを負担するのか-医療安全や「医療の質」向上にはコストがかかる/医療安全に関するコスト負担を問うための2つの質問/医療訴訟にあえぐ米国からの教訓-米国で医療過誤訴訟が増えている要因/「第3の波」/米国の防衛医療の実態/患者救済としての医療訴訟のシステム不全/米国の医療訴訟に対する改革の中間評価/日本の向かうべき方策-患者と医療者の双方が納得する解決策を模索/2つのシステムの限界
第Ⅱ章 医療紛争の成因論
- 医療訴訟を起こすきっかけと理由は-トップは知人からのアドバイス/Ambulance Chaserが訴訟の原因ではない/医療者側からみた訴訟の原因分析-北米型ERでの原因分析/ストレート・フラッシュ理論-4つの要因/訴訟というストレート・フラッシュを作らない/医療訴訟を起こす背景:患者―医師関係、コミュニケーション-訴訟を起こした患者・家族とのコミュニケーション/訴訟行動のプロスペクティブ・スタディ(前向き研究)/コミュニケーションの良否で責任の重さが変わる/医療訴訟は「氷山の一角」の証明/日常の苦情・クレームから訴訟リスクを予測する/危険因子は業務量の多さ/「いい先生」に訴訟リスクが蓄積/患者満足度調査結果から苦情・クレームや訴訟を予測する/ブリガム・ウイメンズ病院の調査結果/日本の臨床現場の患者満足度と苦情発生の頻度
第Ⅲ章 今、「医療の質」が問われている
- 医療紛争が本当に問いかけているもの/医療の妥当性が争われる医療訴訟-訴訟の争点/医療機関の標榜表示/「質」の確保と「効率化」はトレードオフの関係/「質」、「安全」に関する日本人の精神性は変わっていない/紛争解決は「医療の質」を向上させない-医療訴訟は医師の行動変容を促す社会システム/刑事訴訟は責任の追及で、原因究明にはならない/遅ければ治療、早ければ予防、最も早い予防は教育である-医療安全の取り組みを日常臨床の場で/医療の妥当性はピア・レビューで/「医療の質」評価の基本的なフレーム-アウトカム評価はあまり行われていない/治験の空洞化/アウトカム指標としての患者満足度-ドナベディアンの理論/患者満足度の重要性が広く認識されている/患者満足度評価の限界/「質」改善を医療経営の中で取り組む/「質」改善に対する優先順位が低い日本の医療-出来高払い制度は「良質性」を評価しない/医療機関はマネジメントのスキルに乏しい/紛争管理のメディエーションから日常診療の満足度へ:福井総合病院の取組み-究極のリスクマネジメント/メディエーションスキルとは
第Ⅳ章 医療安全と職員満足度との関係
- 燃え尽きる看護師-Nursing Work Index/6割がバーンアウト/医師不足と看護師不足の根は同じ/看護師の人員配置と安全な看護-受持ち患者が1人増えると死亡率が7%上昇/「人間中心の医療」という新しいパラダイム/人件費コストか離職に伴うコストか/看護師の離職-離職の理由/福利厚生が離職を抑える/看護師争奪狂想曲「7:1」-東大付属病院の事例/中小病院では看護師不足に拍車/国際比較データ/医療スタッフの継続勤務意向への影響因子-職員満足度調査の結果/緊急アンケート調査の結果/若手勤務医師の激務の生々しさ-雇用契約上の問題/ワークロードの過酷さ/医師の労働環境が医療安全に与える影響-パイロットの服務規程/過去と比較できない過酷さの度合と訴訟リスク
第Ⅴ章 医療崩壊を防ぐ医師教育
- 進む大学離れの本質-大学離れは研修体制満足度の格差/研修医の選択は合理的である/臨床能力を磨くインセンティブをもった研修医たち-ERセミナー参加者の分析結果/研修医が重視するカテゴリー/研修医は月給よりベッドサイドティーチングを選ぶ/臨床研修と「医療の質」の関係-重視度と満足度/最も影響する因子/組織全体で研修体制の再構築を/研修医の募集定員調整では医師偏在の対策にはならない-研修制度見直し案の疑問点/臨床研修機関に求められる「臨床研修4か条」/研修医に期待をもたせる地域病院の活動/東金病院の試み
第Ⅵ章 患者からの苦情・クレームの実際
- リスクマネジメントの基本を押さえる-リスクマネジメントのプロセス/具体的な手法/苦情・クレームの実態調査結果-主な不満の内容/医療機関側の対応/大クレーム時代の背景:そんなの関係ねぇ-日本は別の国になった/不快への過剰反応/クレーム発生のメカニズム/今、学校教育の現場で起きていること-学校でのイチャモン急増の理由/医療と教育は非常に似ている/なぜ世界水準を放棄するのか?-学力以外の評価ができない"ゆとり教育"/世界でトップの医療水準も簡単に崩壊する/日常の医療現場でのクレーマーは?:医療者が解決困難だった苦情・クレームの事例分析より-苦情・クレームの内容/「わがまま」「イチャモン」は5%のみ/解決困難な事例と医療者の「色眼鏡」/双方納得できる解決ができなかった事例は、よく落とし穴にはまっている/納得できる解決ができた事例とできなかった事例の対応の違い/クレーマーと通常の苦情・クレームの差は「極薄の壁」/苦情・クレームへ対応する担当者へのケア-困難事例で感じるストレスの内容/ストレスマネジメント/困難事例からの学びの可能性-何が看護師をサポートしたか/早期の予防策のチャンス/特殊クレーマーへの対応の方法-苦情とクレームの違い/対応の基本的考え方/「クレーマー」「モンスター」の予断が危険/特殊クレームの見分け方-特殊クレームの類型基準/根拠のあるクレームへの標準的な対応も必要/医療現場での患者の暴言と暴力/マネジメントとしての暴力対策プログラム-身体的暴力と精神的暴力/施設内の暴力に対する対応指針があるのは1割/暴力防止プログラム-包括的暴力防止プログラム/防止プログラムの基本スキル/医療だからこそできることも伝えてほしい-「患者さんの排除」にならないかの危惧/適切な介入には理念と「スキルの獲得」が条件/苦情・クレーム対応が職員満足度に与える影響-職場の人間関係のなかにある精神的暴力/「共創の医療」を作り出す/医療界が社会に規範を提言する時がきた:航空業界の取組み事例-利用者側にモラルや社会的規範が必要/航空業界のケース・スタディ
第Ⅶ章 患者啓発と情報提供に対する
- 医療者の責務/情報の非対称性こそが専門家の存在意義-患者と医療者の間の認識の差/患者啓発と情報提供は、専門家としてのオートノミー/国民は独力で医療情報を入手できるか-医療情報の質を見極めることは困難である/医療情報に関する放送倫理/信頼性の担保には第3者の科学的レビューが不可欠/必要な情報を必要なタイミングで/マーケティング手法による患者啓発-日本医師会の「小児救急の危機」TVCM/「小児救急の危機」の啓発キャンペーン・プラン/試案-目標設定/日本医師会「小児救急の危機」の目標設定を考える/メディア・ミックスの選定/普及曲線を意識したコミュニケーション活動/認知か行動変容かで異なる選択/コンセプト・メッセージの選定/医師会CMの限界/プランニング段階でのコピーやビジュアルのチェック/効果測定はマーケティングに積み残されている課題/NNTは医療経済を視野に入れた評価指標/患者団体による「患者啓発」活動の新しい息吹き/患者たちが医師教育に関わる-患者会とのコラボレーション/草の根運動で「医療不信」を超える
おわりに
- 患者と医療者の"結び合い"を願って
道しるべ
- 医療者の警察司法に対する不信と患者の医療者に対する不信/過去の薬害の経験が生かされない日本のシステム・エラー/医療訴訟からみたジェンダー/認知症医療の現状が提起している医療課題/コストをかけない安上がりな安全はない/新臨床研修制度前後で産科、小児科の志望者に変化はない/毅然とした態度で対応するために/地域住民が医師をリクルート:「待ち」の医療から「想いを伝える」へ
Tips
- 脳性麻痺に対応する無過失補償制度/医療安全への取り組みが加速/スイスチーズモデルとストレート・フラッシュ/HMPS/TQMとは/Nursing Work Index/病院における看護師の人員配置と患者の死亡率/7:1入院基本料/臨床研修4か条/学校現場でのイチャモンの例/国際学習到達度調査/怒りや攻撃性を鎮めるためのスキル実践例/航空機内での苦情・クレームの内容/定量目標と定性目標